特集「酒の国」高知からの発信

高知の食を考えるウェブマガジン「えいにゃあ!」。
創刊0号の本特集では、高知の地酒をテーマに取り上げてみました。

お酒が好きな県と言われる高知県。高知ならではの特色のある地酒の数々や、女性だけのグループでも飲みに行きやすい雰囲気のお店が多いことなどは、県外からのお客様にも高く評価されています。
そこで日本酒について楽しく学べる穴場スポットとして有名な「高知ユースホステル 酒の国共和国」にてお話を伺いました。
取材/2012年7月5日(木)

【語り手 高知ユースホステル 酒の国共和国 近藤富夫さん】
実家が酒店だったという近藤さんは、幼いころから日本酒が身近にある環境の中、自然と日本酒に関わる仕事を希望し、大学でも醸造について学んだとか。
大手日本酒メーカー(兵庫県「大関株式会社」)に就職し、新潟や鹿児島などにも勤務、1980年代には米国カリフォルニア工場での日本酒製造に携わったそう。
地元高知に戻ってからは「稼業である酒屋を潰したくない」「お酒をテーマにした仕事をしたい」という思いが募り、海外勤務で得た多くの経験や縁を活かして、現在の場所で「高知ユースホステル 酒の国共和国」を始めたとのことです。
今回は、日本酒についても、海外の日本酒事情についても詳しい近藤さんにいろいろお伺いしました。さて、「酒の国共和国」とは?

【海外で日本食とともに広がる日本酒】

記者
こちらはユースホステルということで外国の方が多く宿泊されるそうですが、皆さんにとって日本酒は、興味があったり、親しみのあるお酒なのでしょうか?
近藤
日本酒は、35年ぐらい前、我々が酒造メーカーに勤めてた頃が生産量や消費量もちょうどピークで、今はピーク時の4割ぐらいになっているんですよ。
国内ではそうなんですが、今、日本酒の消費が伸びてるのはどこかと言うと海外なんですよ。今、日本食というものが、アメリカだけじゃなくて、東南アジアとか、韓国、台湾、中国、オーストリアですとか、ヨーロッパなんかでも、お寿司なんかを中心に広まってきました。日本食を普及させようとしている方々が30年くらいかけてずーっと苦労されてきた結果ですね。


海外の方の生のお魚に対する抵抗感を無くして、食べていただけるようにとお醤油や、ワサビを使ったり、お酢でしめたりですとか、いろんな形で苦労されてきて、日本食というものが広まってきて、それにつれて清酒も広まってきました。

今でこそクールコンテナなどがありますが、今から30年くらい前までは、日本酒を輸出するにも船便で暑い地域を通って行きますから、向こうへ到着するころには品質が劣化して、日本で飲むのと全然味が違っていました。それで日本の酒造メーカーで一番最初に宝酒造(松竹梅)さんが、オークランドに工場を作りました。カリフォルニアだけで5社くらい日本のメーカーが出て行ってますね。日本のメーカーが、向こうのお米で日本酒を作るようになっているんです。

記者
お米がアメリカ産という以外は、作り方は日本と一緒なんですか?

近藤
そうですね。ほとんど日本のお酒を基準にして作っています。酒造りに使う特殊な機械はほとんど日本から持って行きます。でもタンクは向こうのタンクを使うんです。というのはアメリカのカリフォルニアには 、ナパとかソノマとか、有名なワインカントリーがあって、ステンレスのすごくいいタンクがあるので、タンクは向こうのを使います。でも特殊な、お米を蒸す機械であるとか、こうじを作る機械であるとか、そういうのは日本のものです。

記者
そうやって、カリフォルニア米などから作った日本酒というのは、向こうで売るためのものなんですか?

近藤
そうです。アメリカで造った日本酒の9割はアメリカで主に日本食レストランで消費されていました。残り1割がヨーロッパへの輸出で、1パーセントくらいがメキシコでした。

【本格的な日本食が世界に広まるにつれて、日本酒のファンも増えている】

近藤
僕が昔いた25、6年くらい前に、メキシコシティにサントリーさんが出している、いい日本食のレストランがありました。当時は日本食レストランと言っても、アメリカでも日系の方がやっていたり、台湾の方がやっていたりするところは美味しいんですけど、内陸部の方に行くとたとえば、韓国の人がやってたりベトナムの人がやってたり、フィリピンの人が寿司を握ってたり。メキシコでもメキシコの人がお寿司を握っていて、そうすると日本の寿司とは全然違うものが出てきてしまったりしてね。まあ、それはそれで面白いんですけど。日本食というものが海外で広まっていくにつれて、結局それに応じてですね、たとえば我々が「ビールを飲みに行きたい」とすると、ドイツとかベルギーへ行きたいですよね。チェコとかね。「ワインを飲みに行きたい」とすれば、フランスとかイタリアとかですね。ドイツもね。
ああいう本場に行きたいと思うように、日本食というものがもうちょっと一般的になってくると、いずれは、日本へ行って本当の日本食を楽しみたいとか、日本酒を飲みに行きたいという外国の方も増えると思うんです。


日本酒を引き立てる食事も提供。地元で採れた野菜や魚に日本酒が合う。

今、海外の方が日本へ来て、日本酒のことを知りたいなと思っても、なかなかそういうところがないんですよ。
たとえば高知へ来ても、日本酒の情報をいろいろ聞こうと思ったら、どこへ行きます? 観光案内所とか行っても、なかなかそこまでの情報はないじゃないですか。東京の場合は、新橋のところに日本酒造組合中央会の建物があって、そこの1階の「日本の酒情報館」では、パソコンで英語・韓国語・中国語などで情報が見られるようになっていたり、その月のお酒をテイスティングできたりとか、そういう場所があります。でも情報を求めている方には少し物足りない。大きな蔵元さんの持ってる博物館などは見ごたえがあるものもありますが、ビールやウィスキーを出している大手メーカーと違って、酒造メーカー1社っていうと大きいと言っても規模は中途半端になってしまうんですよね。
やっぱり、これからは高知でも、全体で、海外の方へ向けて情報を発信する必要性が出てくると思います。

【訪れる方に応じて様々な体験コースが選べる 「酒の国共和国」】


日本酒のテイスティング。季節や時期によってベストなものをチョイス。

私たちも個人でできることは限られていますが、できるだけ日本酒のファンを増やしていきたいと思い、酒屋も維持をしながら、(店舗の)移転に合わせて宿泊もできるようにして、泊まってもらって体験ができるような施設にしました。

ここへは、蔵元の方も来るし、県外のプロの方も来るし、全く何もわからない外国の方で「日本酒ってお米から作ってるんですか」というような方まで、本当に幅広い層の方がいらっしゃいます。ここでは利用する方に応じていろんなコースを用意しています。 1日だけじゃなくて2、3日滞在すれば、かなり日本酒に詳しくなることができると思いますよ。

【なぜ高知で日本酒が飲まれている?】

記者
酒造りの工程を説明して頂きましたが、九州南部で焼酎が多いのは温かい気候のため、良質の清酒を造るのが難しく、蒸留文化が発展したとのことでしたね。
では高知は、清酒を造る場所としてはどうなんですか?

近藤
高知は、清酒の地域としては南限ですね。
やはり北国のほうが、良質の清酒造りには向いています。北国の酒のおいしさは、雪解けの伏流水の水の良さにあると私は思っています。
高知は酒蔵の数でも、全国的に言えばそんなに多い方ではありません。でも技術的には、四国ではトップクラスだと思います。土佐鶴や司牡丹そして酔鯨など、高い技術を持った県外でも有名な酒蔵があります。


記者
高知は酒飲みの県だとよく言いますが(笑)

近藤
高知の人がお酒が好きなのは、海と四国山地で遮られ孤立している、交通の便が悪い土地で、楽しみがなかったからかもしれません。(笑)
それとともに、温暖な気候や、野菜や魚がたくさんとれて食べ物に恵まれたこともあると思いますね。

【ユースホステルとして】

記者
こちらの施設をご利用されるのは国内外の様々な方がいらっしゃると思うのですが?

近藤
日本から海外に行かれる時、だいたい皆さんガイドブックは「地球の歩き方」を読んで行きますよね。
そして海外の方が日本に来られるときは「Lonely Planet」(ロンリー・プラネット)や「Rough Guides」(ラフ・ガイド)をだいたい読んで来られます。「Lonely Planet」は世界中で一番有名ですが、去年版からここの「きき酒教室」が掲載されるようになって。それを読んだ方から、メールで予約やお問い合わせが来始めまして。
結構、利き酒をされる外国の方もいらっしゃいます。

自由にくつろげる1Fサロン パソコン、新聞、旅の情報誌などがある。
2Fには家族や友達と、または1人で・・・といろいろなタイプの部屋がある。

記者
「Lonely Planet」に載ったら確実に来ますよね。
近藤
確実に来ます。ただ去年は、震災の影響があったので利用者は減りました。それまで外国から年間500人くらいは来て頂いていましたが、去年は4割ぐらいでしょうか。
記者
施設で自慢のものを教えてください。
近藤
建物や家具に、高知の木をふんだんに使用しています。

記者
食堂のおすすめは?


近藤
季節のお酒3点セット(500円※取材当時)です。高知の日本酒がメインですが、日本酒だけでなくその他のお酒も楽しめます。
他、ご予算に応じてお食事もできます。
記者
一番力を入れている点、見どころはなんですか?
近藤
国内だけでなく海外のお客様にも日本酒が楽しめるように、きき酒教室など、様々なプログラムを用意しています。

日本酒と、それとともに切り離せない日本食の文化を、多くの人に知ってもらうため「きき酒教室」など独自のプログラムを用意し、日本酒について学べる場を提供している「酒の国 共和国」。同時に、世界に向けて高知の酒のみならず、日本酒全体の情報発信をする役割も果たしている。

ここに集う人々は、蔵元や地酒小売店の人などの日本酒のプロを始め、今まで日本酒のことを全く知らなかった外国からの旅行者までさまざま。日本酒の製造過程を図解したプリントは、外国からの旅行者のために英語で表記。地元の旅館の仲居さんたちを対象に、日本酒のレクチャーを行うことも。

昨年から、海外から日本へ訪れる旅行者のガイドブックの定番である「Lonely Planet(ロンリー・プラネット)」に、「高知ユースホステル 酒の国共和国」の「きき酒教室」が掲載されるようになり、海外からの予約や問い合わせも増え、実際にきき酒を体験する外国人の方も少なくない。高知県内の18の酒造会社についての特色や代表銘柄などの解説も聞ける。

【高知ユースホステル 酒の国共和国】

場所:高知県高知市福井東町4-5
TEL:088-823-0858
公式WEB:http://www.kyh-sakenokuni.com/
最寄りの交通
JR円行寺口駅より、徒歩10分
休日・営業時間
休日は特になし(※年に2週間くらい休館あり)時間:6:00~23:30


編集後記
ウェブマガジン「えいにゃあ!」創刊0号をお読みいただいたき、誠にありがとうございました。
6月のウェブマガジンの特集企画会議中、編集スタッフの一人が言った
「地酒の面白い所があるんだけど…」。その一言で、今回「高知ユースホステル 酒の国共和国」に訪れることになりました。ユースホステルとしてはめずらしい「利き酒教室」は、お酒が造られる過程や歴史、背景も勉強できるというプログラム。また食事時は事前にお願いすれば四季折々の料理に合わせて最適なお酒を楽しめます。より深く、お酒を楽しみたい方、高知を楽しみたい方にぜひおすすめのスポットです。
私たちの質問にも丁寧に答えて頂き、美味しいお酒とお料理でおもてなしして下さった「高知ユースホステル 酒の国共和国」の皆さん、近藤さん、本当にありがとうございました。ウェブマガジン「えいにゃあ!」では“高知の食”をテーマに、気になる話題をお届けしてまいります。
今後ともよろしくお願いいたします。

「えいにゃあ!」編集スタッフ一同
2012年7月