れいほく(嶺北地域)の田舎寿司

今回は、NPO高知の食を考える会の会員でもあり、スーパー「末広ショッピングセンター」や高知県の特産品ネットショップ「すえひろ屋」で田舎寿司の販売に携わっておられる株式会社末広の代表取締役山下由子さん(写真右)に「れいほく(嶺北地域)の田舎寿司」についてお話をお伺いました。

(写真左は由子さんの娘さんで、次長の山下智宏さん)
2012年9月取材


語り手 【株式会社末広 代表取締役 山下 由子さん】

  株式会社末広の代表取締役社長として、土佐町のスーパーマーケット「末広ショッピングセンター」、総合宴会会場「フォーラム末広」の経営や、高知県の特産品を販売するネットショップ「すえひろ屋」などを手掛けておられる山下さん。
NPO法人「高知の食を考える会」の会員でもある山下さんの食への思いは深く、今回のお話でも、お米へのこだわりを語っておられました。また、以前に酒屋を経営されていたこともあり、お酒についても詳しいとのこと。とてもパワフルで明るく、エネルギーを感じる女性です。


「田舎寿司」という呼び方

記者
高知市内などではよく使われますがでは、嶺北地域では「田舎寿司」という呼び方は実際あるんですか?または「山菜寿司」とか?

山下(敬称略)
私がこちらに嫁入りした当時の話なんですが、「田舎寿司」という表現はなかったと思います。
このへんは神祭(じんさい ※神社のお祭り)とかがあると、男の人が魚を料って、女の人が煮物をしたり、そういうときにこういったお寿司も作られてきたみたいですね。でもそれを田舎寿司と呼んだかというと…。田舎の人間が「田舎寿司」とは言わないのではないでしょうか。外から見たときに田舎寿司と言われたのではないかなと思います。

甘さと柚子の風味が懐かしい田舎寿司

記者
嶺北の田舎寿司は少し甘めですね。

山下
嶺北地区は特に山の中でしょう? 昔は甘いものに価値があるという考えがあったように思うんです。ちらし寿司に金時豆を入れたりとか。 今でも時々豆入のものを作りますよね。

記者
そういえば同じ四国内では徳島県も、金時豆をいろいろな料理に入れますね。

山下
その感覚は近いかもしれませんね。
昔はとにかく甘いということに価値があったんですね。お年寄りに聞いたらわかると思うんですけど、砂糖自体が貴重品で、高価なもので、甘いものを作るということ自体がご馳走なんです。 昔からいえば砂糖の量は減らしてきたんですよ。でも、そもそもの味付けの基本が甘いんですね。
最近では食の健康ということが言われ出して、塩分と糖分を減らす風潮があって、これは全国的な流れですけど、お客さんが求める味の方向へ合わせて変化してきました。

記者
甘いということですが、酢飯が甘いのか、載っている具が甘いのか、両方なんですか?

山下
まず「酢飯」ではないでしょうか。お砂糖の分量ですね、酢飯を炊くときにお砂糖と柚子を入れますね、これは高知県の特徴のような気がしますけれど。

記者
最近、柚子を効かせた酢飯を作るところが増えてるような気がします。

山下
柚子を効かせてくれという要望を頂くことはありますね。全国通販をしていますけれど、特に都会、遠方へ向けて発送するときに、いかに柚子の香りを長持ちさせるかというのもテクニックになってきますね。

記者
そういえば先程、地元のひとは「山菜のお寿司」をそれほど食べないとおっしゃってましたが。

山下
そうですね、地元の人が何のお寿司を食べたいかと言うと、握り(寿司)ですよ(笑)。 たけのこなんかは、田舎の人は普段から見ているから寿司にまで入れて欲しくないと言われるくらいで(笑い)。

記者
やはり田舎寿司というものを購入されるのは、帰省客があったときなどでしょうか?あと、県外のお客様から通販でのご注文もありますか?

山下
そうですね、県外の方や帰省客のお買い求めが多いですね。うちは通販と、スーパー店舗という2つの販売窓口を持っていますけど、通販で一番出るのは清水鯖のお寿司で、次に田舎寿司ですね。高知出身の人や、高知で食べたことがある人が、県外から取り寄せて下さっているような感じです。

味のこだわりは「お米」

記者
企業秘密かもしれませんが、お寿司を作る上でのお店としてのこだわりはありますか。

山下
お米ですね。一番のこだわりがあります。おいしく食べて頂くために、自分のところで精米して、フレッシュな状態のお米を食べて頂くようにしています。

記者
お米は地元のお米なんですね。

山下
本当に減農薬を徹底しているところと契約して使っています。

記者
れいほくのお米は棚田米などが有名ですが。

山下
ブランドとしての「棚田米」「天空の郷」などもありますが、このへんはみんな棚田ですので(笑い)。 水源地も一緒で山の上から流れてきて吉野川へと落ちるような所で作っています。
お寿司はお米が命だと思っています。おいしいお米はやはり違いますよね。その元は水だと思います。棚田の寒暖差もお米の生育に良いのだと思います。

全国でも珍しい「野菜のお寿司」

記者
田舎寿司の具の定番というのはあるんですか。

山下
年間を通じて、だいたい同じですね。たけのこ、蒟蒻(こんにゃく)、山菜など・・・。

記者
イタドリとぜんまいのお寿司は私は初めて食べました。

山下
そうですか、こちらでは特にぜんまいなんかはよく作られているので当たり前に食べていますね。

記者
その時期にしか食べられないものなどはありますか?

山下
山菜なんかはみんな漬物にしておいてますからね、ほぼ一年中、りゅうきゅうなんかも一年中食べますね。

記者
野菜を使ったお寿司は県外から見ると珍しいようですよね。

山下
そうですね、このあたりでも葬祭の仕出しの寿司なんかは一般的な握りなんですよ。
やっぱり田舎寿司というのは、県外からのお客さんがあるから食べるとか、親戚が久しぶりに帰って来たから食べるとか、そういったちょっと特別なものになっているようです。

記者
どのような食べ方をされているんでしょうね。酒の肴として食べるのか、子供さんなどもいますよね、みんなで食べるのか・・・

山下
寿司はたいてい盛り合わせで、ビュッフェ形式というか、酒の肴につまむ人もいれば、子供さんも食べるような感じだと思います。高知県は変わってるみたいで、他の地方では飲むときはご飯ものは最後に出るようですが、こちらでは日本酒と一緒に最初からお寿司も食べますよね。皿鉢と一緒ですね。県外に出た人も歳が行くと皿鉢が食べたくなってくるようで、こういう田舎寿司も、懐かしがって食べて頂いてるようです。

全国ブランドへ向けての挑戦

山下
将来的なマーケットは東京、大阪など人口の多い都会と考えています。都会でも需要を掘り起こすべくチャレンジをしています。
ただ、全国ブランドには全国区並みのレベルがありますね、柿の葉寿司なんかの全国ブランドとの競争は厳しいですし、まだまだです。高知の田舎寿司は、りゅうきゅうをシャリに乗せてりゅうきゅう寿司というような非常にシンプルなものなので、もう一つ工夫をしていきたいですね。

田舎寿司の普及を願って

記者
このあたりで、田舎寿司を食べたいとき、食べられるところはありますか?

山下
まず食堂自体ないですからね、人口が少なくて経営が成り立たないですし、田舎寿司がいつでも食べられるお店はないですね。
そんな中で「あそこのお婆さんの鯖寿司がおいしい」という昔ながらの味が消えて行く状況もあります。
こういうWEBマガジンなどで、多くの人に広めていければいいと思いますね。

山下(智宏)
山菜寿司に関しては普段の需要が少なくって、平日はあまり店頭にお出しできてないのが現状ですけど、土日などには積極的に作ってお出しするようにしています。
でも通販でうちのお寿司をお買い求めいただいたお客様が、店舗へ立ち寄ってお寿司を買おうとと思ったら売ってなかった、とがっかりされたこともあります。
高知のお客様で、「おいしいから食べて」と県外へのギフトに送って頂けることがあるんですけど、お寿司はやっぱりその日のうちに食べて頂かなくちゃ、翌々日になると各段に味が落ちてしまうということがあるんですね。それでも通販用の商品は、製法も少し店舗売りの分と違うんですよ。すぐに食べるわけではない、一日置いてから食べて頂くということで、時間を置いてもおいしい状態がキープできるような工夫をしています。
冷凍の技術の確立については私どもは非常に使命感に燃えているんですけど。
ただ、野菜のお寿司は冷凍に向かない部分があります。魚のお寿司は比較的冷凍に強いのですが。なので冷凍技術の向上には、さらに努力をしていることろです。

記者
田舎寿司を食べてふるさとを感じて頂いたり、興味を持って頂いたりして、少しでも多くの方に召し上がって頂きたいですね。本日はありがとうございました。


【株式会社 末広】
末広ショッピングセンター(右写真) / すえひろ屋 / フォーラム末広
場所:高知県土佐郡土佐町田井1353-2
TEL:0887-82-0128
公式WEB:http://www.suehiloya.jp/

【編集後記】


ウェブマガジン「えいにゃあ!」創刊号をお読みいただいたき、誠にありがとうございました。 発行としては第2弾になる今号のウェブマガジンの特集 「田舎寿司」はいかがでしたか?取材させて頂いた、「株式会社 末広」さんでは、社員の方に一つずつお寿司を握って頂いたり、代表の山下さんにお米作りの話、次長として活躍中の娘さんに通販のお話等を丁寧にお伺いすることが出来ました。母娘の活躍の裏には、地道にお米作りに励まれるご主人のお話を伺うこともでき、家族で嶺北の味を追求されているのだなぁと感慨深く帰途につきました。

後日、お取り寄せして頂いた田舎寿司の味もさることながら大きさに驚きました。 写真はお取り寄せした清水サバの姿寿司BOX。迫力の大きさでしょう!?ウェブマガジン「えいにゃあ!」では“高知の食”をテーマに、気になる話題をお届けしてまいります。今後ともよろしくお願いいたします。

「えいにゃあ!」編集スタッフ一同

2012年9月
発行/NPO法人 高知の食を考える会
取材・編集/研修情報委員会
(ウェブマガジンプロジェクト)